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韓国で名字の「さん付け」は失礼?김 씨と敬語の間違い

韓国語の呼称を書き出したメモ帳と、笑顔の男性
目次
  1. 誤解1:「김 씨」は韓国語のさん付けだから失礼にならない
  2. 誤解2:당신は韓国語の「あなた」だ
  3. 誤解3:肩書きだけで十分丁寧だ
  4. 誤解4:丁寧さは文末で決まる
  5. 韓国語の敬語の間違いが、文法ミスより重く受け取られる理由
  6. よくある質問

「김 씨(キム シ)」。教科書で覚えた씨を、「さん付け」の感覚で名字につけただけの呼び方です。言った本人は、きちんと丁寧に呼んだつもりでいます。ところが韓国では、名字だけに씨をつけると失礼に響き、相手は「この人、自分を下に見ているのかな」と受け取ります。その場で怒る人はいませんし、間違いを指摘してくれる人もいません。誰も直してくれないので、本人は気づかないまま同じ呼び方を続けてしまいます。そこがいちばん厄介なところです。韓国語の敬語でよくある間違いは、ほとんどがこの「丁寧に言ったつもり」と「相手の受け取り方」のずれから生まれます。とはいえ、直すべき点はそれほど多くありません。敬語の段階をすべて覚えるより先に、この記事で取り上げる4つを押さえておけば大丈夫です。

クイックアンサー

  • 韓国語には大人を名前だけで気軽に呼ぶ言い方がないため、名前のあとに씨(シ)をつけて丁寧に呼びます。
  • 「さん付け」の感覚で씨を名字だけにつけるのは禁物です。김 씨(キム シ)は見下した響きになるので、フルネームの김민수 씨(キム・ミンス シ)か、下の名前だけの민수 씨(ミンス シ)を使います。
  • 肩書きは님(ニム)をつけて初めて丁寧になります。교수(キョス)だけでは失礼で、実際に使うのは교수님(キョスニム)です。「あなた」のつもりで당신(タンシン)を使うのも避けましょう。
  • 文法書は敬語の段階を6つに分けますが、いまの大人がふだん使うのはそのうち2つ、해요체と합니다체だけです。

誤解1:「김 씨」は韓国語のさん付けだから失礼にならない

まずは、そもそもなぜ名前のあとに씨がつくのかを押さえておきましょう。ここをきちんと説明している教材は、意外なほど少ないからです。韓国語には、大人を名前だけで気軽に呼ぶ言い方がありません。その穴を埋めているのが씨です。ローマ字では「ssi」と書き、学習者の耳には「シ」と聞こえます。文法上は依存名詞で、名前のあとに置くと、相手とのあいだに丁寧な距離が生まれます。親しい友人どうしでもないかぎり、韓国人がたいてい名前に씨をつけて呼ぶのはこのためです。国立国語院も씨を「大人の姓名や名前のあとにつけて、その人を高めて呼んだり指したりする語」と説明しています。辞書には、初級の教科書ではあまり見かけない注意書きもあります。公的な場や書き言葉でないかぎり目上の人には使いにくく、ふつうは同僚や目下の人に使う、という点です。

この「目上には使いにくい」という性質が、つまずきの出発点です。씨が丁寧な呼び方になるのは、フルネームか下の名前につけたときだけです。名字だけにつけると、とたんにとげのある言い方に変わります。김민수 씨(キム・ミンス シ)は中立で、正しい呼び方です。민수 씨(ミンス シ)は、お互いを知ってからの同僚どうしが使う、親しみのある対等な呼び方です。問題は김 씨(キム シ)です。韓国人の耳には、上司がフルネームも覚えていない部下を呼びつけるときの言い方に聞こえます。韓国のニュースで名前を伏せた人物を「32歳のキム氏」のように書くときも、この形を使います。

씨を日本語の「さん付け」と同じものだと思っていると、ここで食い違いが起きます。国立国語院の『韓国語基礎辞典』日本語版を引くと、씨の訳語は「し【氏】」と「さん」です。日本語の敬称は「人名や官職名などの下につけて」使う語(デジタル大辞泉)なので、「田中さん」のように名字だけに「さん」をつけても、敬意はきちんと伝わります。씨はそうはいかず、名字だけにつけると相手を見下した呼び方になってしまいます。Talk To Me In Koreanのようなネイティブ運営の教材は何年も前からこの点をはっきり指摘していますが、初級のフレーズ集にはいまも「名字につければ安全」と読める書き方が残っています。実際には安全ではありません。

形つく相手どう響くか
민수 씨下の名前丁寧で親しみがある、対等な間柄
김민수 씨フルネーム丁寧で中立、少し改まった感じ
김 씨名字だけ見下した響きになる(使わない)
민수 님下の名前・ID名より敬った形。窓口やネット上で
교수님役職・肩書き目上の相手には必須

そもそも名前のどこまでが名字なのか迷う場合は、キム・イ・パクの本当の発音をまとめた記事を先に読んでおくと、すぐに見分けがつくようになります。

誤解2:당신は韓国語の「あなた」だ

당신(タンシン)という単語自体はあります。ただ、目の前の相手を呼ぶときに使うことは、まずありません。よく見かけるのは広告のコピーや歌詞、翻訳の字幕、それに夫婦のあいだの呼びかけで、どれも初対面の人と話す場面とは縁がありません。知らない人に당신と言えば、一気に冷たい響きになります。당신 뭐야?(タンシン ムォヤ/「あんた何なの?」)は丁寧な質問どころか、口げんかの始まりに出てくる言い方です。「あなた」と言いたくなったときの置き換え方は三つあります。名前+씨で呼ぶか、肩書き+님で呼ぶか、代名詞そのものを言わないかです。韓国語は主語を省いても自然な文になるので、어디 가세요?(オディ カセヨ)だけで「どちらへ行かれますか?」という意味になります。너(ノ)はくだけた「きみ」にあたる語で、반말(パンマル)、つまり親しい友人やはっきり年下の相手と話すときの話し方で使います。会ったばかりの人に使う言葉ではありません。

誤解3:肩書きだけで十分丁寧だ

韓国語では、肩書きをそのまま呼ぶと中立どころか、ぶっきらぼうに聞こえます。丁寧にするには님(ニム)を添える必要があります。廊下の向こうにいる教授を교수(キョス)と呼べば失礼で、学生は必ず교수님(キョスニム)と呼びます。ほかの肩書きも同じで、先生なら선생님(ソンセンニム)、お店の主人なら사장님(サジャンニム)、運転手さんなら기사님(キサニム)です。ここでとりわけつまずきやすいのが、日本語から韓国語を学びはじめた人です。日本語では「先生」の二文字だけで、立派な敬称として通じるからです。韓国語ではそうはいきません。語彙をこれほど共有している二つの言語ですが、敬語の面ではっきり分かれる数少ない点の一つが、この님です。職場ではこの違いがよく見えます。役員が部下の部長を김 부장(キム プジャン)と呼ぶことはあっても、部長より下の人はみな김 부장님(キム プジャンニム)と呼びます。迷ったら、とりあえず님をつけておきましょう。そうしておけば、失礼になる心配はまずありません。

誤解4:丁寧さは文末で決まる

文末を丁寧にしただけでは、まだ半分です。韓国語では文全体で敬意を表すので、動詞もそれに合わせる必要があります。この仕組みには文法上の名前もあり、『韓国民族文化大百科事典』は、動詞の語幹に-시-をつけて文の主体を高める仕組みを「主体敬語法」に分類しています。日本大百科全書(ニッポニカ)の「朝鮮語」の項にも「素材敬語は接辞で、対者敬語は語尾で示される」とあり、聞き手への丁寧さと話題の人物への敬意は、別々の形で表すことになります。교수님이 지금 와요(キョスニミ チグム ワヨ)と교수님께서 지금 오세요(キョスニムケソ チグム オセヨ)を比べてみてください。どちらも文末は丁寧ですが、教授を敬っているのは後者だけです。違いを生んでいるのは、主格助詞の께서(ケソ)と、오세요の中に入っている尊敬の-시-(シ)です。この一致が抜けると、ほめ言葉を棒読みしているような、そっけない文になってしまいます。ごく身近な動詞のいくつかは、-시-をつける代わりに別の単語に置き換わります。있다は人が主語なら계시다(ケシダ)、먹다は드시다(トゥシダ)、자다は주무시다(チュムシダ)です。名詞も同じで、나이は연세(ヨンセ)、이름は성함(ソンハム)になります。

反対に、つけすぎも間違いです。自分のことには-시-をつけません。저는 집에 있어요(チョヌン チベ イッソヨ)が正しく、계세요とは言いません。また、커피 나오셨습니다(コピ ナオショッスムニダ/「コーヒーがお出ましになりました」)は韓国じゅうのカフェで耳にする言い方ですが、ネイティブでもやってしまう間違いです。国立国語院は、敬う対象になりえないモノまで高めてしまうこの「사물 존대(事物尊待)」を誤りとしています。丁寧に接する相手は飲み物ではなくお客さんなので、正しくは커피 나왔습니다、品切れなら품절이십니다ではなく품절입니다です。

韓国語の敬語の間違いが、文法ミスより重く受け取られる理由

敬語が表しているのは文法の正しさではなく、相手との関係だからです。助詞を間違えても「外国人らしい韓国語だな」と思われる程度で済みます。ところが敬語の間違いは、相手を目上と見ているか目下と見ているか、その判断として受け取られます。김 씨と呼ぶのは、単なる言い間違いではありません。相手を自分より下に位置づけた、と受け取られてしまうのです。相手が間違いを直さず、一瞬黙ってしまうのはそのためです。直してもらえないので、この種の間違いはほかの初級のくせよりも長く残ります。

相手との関係という視点で見ると、一見理屈のわからないルールにも納得がいきます。수고하셨습니다(スゴハショッスムニダ/「お疲れさまでした」)は同僚や後輩に一日の終わりにかける定番のあいさつですが、韓国のマナー指南では、目上の人に使うのは適切でないとされています。相手の苦労をねぎらうのは、上の人が下の人にすることだからです。上司や教授には감사합니다(カムサハムニダ)と言えば十分です。文法書はいまも敬語の段階を6つ(합쇼체・하오체・하게체・해라체・해요체・해체)に分けていますが、2026年現在、大人がふだんの生活で使うのはそのうち2つだけです。日常的な丁寧体の해요체(ヘヨ体)と、発表・接客・初対面で使う改まった합니다체(ハムニダ体)です。하오체と하게체は、ほぼ時代劇の中にしか出てきません。よく使うこの2つをしっかり身につければ、古い段階はずっと後回しにしてかまいません。

ここで、少しほっとできる話もしておきます。韓国の人は外国人の韓国語にとても寛容で、間違いをいちいち採点しているわけではありません。学習者が意外に感じるのは、発音が上達したとたんに、その寛容さが急に薄れることです。流暢に聞こえるようになると、聞き手もふつうの基準で聞くようになります。だからこそ、この4つのくせは早いうちに直しておきましょう。そうすれば、流暢に聞こえはじめるころには、もう直すべきものは残っていません。

よくある質問

Q: 韓国人が名前のあとにつける「シ」は、日本語のさん付けと同じですか?

その「シ」は씨で、ローマ字では「ssi」と書きます。韓国語には大人を名前だけで呼ぶ中立的な言い方がないため、씨をつけて呼ぶのがふつうです。働きは日本語の「さん」に近いものの、誤解1で見たとおり、名字だけにつけると見下した響きになる点が違います。下の名前(민수 씨)にもフルネーム(김민수 씨)にもつけられます。同僚や同級生、知り合ったばかりの相手にはつけたままにして、반말で話せるほど親しくなってから外します。

Q: 韓国人を下の名前で呼ぶのは失礼ですか?年上の相手ならどうですか?

名前で呼ぶこと自体が失礼なわけではありませんが、名前だけで呼べるのは親しい友人か年下の相手です。同僚や知り合ったばかりの人なら씨をつけて민수 씨(ミンス シ)と呼び、年上や目上の人には肩書き+님を使って、名前は口にしないのが基本です。

Q: 씨と님の違いは何ですか?

씨(シ)は対等な相手に使う丁寧な呼び方で、名前につけます。님(ニム)はそれより一段高い敬称で、肩書き(교수님、사장님)や、ネットのID名・お客さん(민수 님)につけます。相手が自分より上の立場なら、迷わず님を選べば間違いありません。

Q: 韓国語で반말に切り替えていいのはいつですか?

相手のほうから言ってくれたときだけです。たいていは말 놔도 돼(マル ナド ドェ/「ため口でいいよ」)という形で切り出されます。年齢と親しさの両方が関わり、同い年どうしでも自分から반말にするとずうずうしく聞こえます。

Q: 韓国人は外国人の敬語の間違いに気を悪くしますか?

基本的には、しません。ほとんどの人は韓国語で話そうとしてくれること自体を喜びますし、小さな間違いは何も言わずに流してくれます。それでも、この記事で取り上げた形だけは直しておく価値があります。「外国人の韓国語」ではなく、「立場についての判断」として受け取られてしまうからです。

Q: 初対面の人を오빠・언니・형・누나と呼んでもいいですか?

やめておきましょう。どれも本当に親しい間柄で使う親族呼称で、会ったばかりの相手に使うとなれなれしく感じられます。関係がそこまで近づくまでは、씨か肩書きで呼んでおきます。どれを使えるかは年齢と性別で決まるので、細かい条件は오빠・언니・형・누나の使い分けで整理しています。

씨と님の使い分け、당신を使わないこと、そして-시-の一致。この4つを押さえれば、相手に引っかかりを残すような間違いはほぼなくなります。あとは語彙を増やしていくだけで、そこはいちばん簡単なところです。

特集 敬語と呼び方